キセノンは気体密度 5.894 g/L、融点 −112 °C の貴ガスである。空気中にはごく微量しか存在せず、液体空気の深冷分離によって抽出されるが、その独特な発光性と電離性により、いくつかの先端分野で代替できない存在となっている。照明はその伝統的な用途である。高圧キセノンランプは太陽光に近い色を高い相関色温度と優れた演色性で放ち、映画映写機、自動車の HID ヘッドランプ、手術室の無影灯、サーチライトで主流となっている。キセノン閃光管は写真の補助光、ストロボ式回転数測定、レーザーの励起に使われる。航空宇宙では、キセノンイオン推進器がキセノンを推進剤として用い、これを電離し高電圧グリッドでイオンを加速する。比推力は化学ロケットをはるかに上回り、推力は小さいが数か月持続するため、通信衛星の位置保持や深宇宙探査機の標準となっている。医学では、キセノンは吸入麻酔薬として研究された。効力が強く、導入と覚醒が速く、循環への影響が少ないためである。液体キセノンは高い密度と高いシンチレーション収量をもつため、暗黒物質の直接探索やニュートリノ実験におけるタイムプロジェクションチェンバーの標的物質である。キセノンはエキシマレーザーや素粒子物理の検出器にも使われる。
キセノンは長らく完全に不活性と考えられていたが、1962年に最初の貴ガス化合物が合成された。二フッ化キセノン(XeF2)は最も入手しやすく研究の進んだキセノン化合物で、白色結晶であり、水中でゆっくり加水分解する。半導体工場ではケイ素や二酸化ケイ素の選択的エッチング剤として、またフッ素化剤や酸化剤として働く。四フッ化キセノン(XeF4)と六フッ化キセノン(XeF6)は強いフッ素化剤である。XeF6 は核燃料再処理でウランを揮発性の六フッ化ウランに変換し、ガス遠心分離による同位体分離を可能にする。三酸化キセノン(XeO3)は強力な酸化剤で敏感な爆発物であり、水溶液中でしか短時間しか存在せず、主に実験室の酸化化学で使われる。過キセノン酸塩、たとえば過キセノン酸ナトリウム(Na4XeO6)は、知られている中で最も強い固体酸化剤の一つである。XeCl や XeF といったエキシマーは、半導体リソグラフィや眼科手術に使われるエキシマレーザーの利得媒体である。