水素は宇宙で最も軽く最も豊富な元素であり、常温では無色無臭の気体で、密度は空気のおよそ14分の1しかない。進行中のエネルギー転換において最も期待されるエネルギーキャリアの一つでもある。最大の工業用途はアンモニア合成である。ハーバー・ボッシュ法では、水素が高温高圧・触媒下で窒素と反応してアンモニアとなり、さらに尿素や硝酸アンモニウムなどの窒素肥料へと加工されて、世界の食料生産を支えている。製油業は水素を大量に消費し、水素化分解、水素化脱硫、水素化精製によって重質油をガソリンや軽油に変換すると同時に、硫黄、窒素、金属分を除去してよりクリーンな燃料を製造している。
エネルギー分野では、水素燃料電池が水素と酸素を電気化学的に結合させて発電し、排出するのは水だけである。燃料電池車、路面電車、非常用電源、分散型発電所に用いられ、グリーン水素は鉄鋼、化学、大型海運など脱炭素化が難しい産業の重要な代替燃料と見なされている。宇宙分野では液体水素と液体酸素をロケットの主推進剤として使い、大きな推力をクリーンな排気で得ている。ほかにも水素は、液体植物油を水素化してマーガリンやショートニングにしたり、フロートガラス製造で錫槽の酸化を防いだり、ケイ素やゲルマニウムの単結晶育成で還元・保護ガスとして使われたりする。水素が選ばれるのは、単位質量あたりの燃焼熱が最も高く、還元力が極めて強く、反応生成物がクリーンだからである。
水(H2O)は水素の最もよく知られた化合物で、飲用、灌漑、工業冷却、発電、化学溶媒としてほぼあらゆる分野をカバーし、生命そのものの媒体をなしている。アンモニア(NH3)は直接窒素肥料になるだけでなく、硝酸、ソーダ灰、アクリロニトリル、各種アミンの原料でもある。液体アンモニア自体も一般的な低温冷媒であり、排ガス脱硝の還元剤でもある。過酸化水素(H2O2)は一般にオキシドールと呼ばれ、分解しても水と酸素しか生じないため、パルプや繊維の漂白剤、飲料水の消毒剤、食品加工の漂白剤、環境にやさしい酸化剤として広く使われ、半導体洗浄でも大量に用いられる。塩化水素(HCl)は水に溶けて塩酸となり、鋼材の酸洗、油井の酸処理、金属表面処理、クロロメタンやPVCの製造に使われる基本的な強酸で、pH調整や塩化物塩の調製にも用いられる。